Eの廉価版

ニーズに合わせ様々な形態のボディから込め細かく仕様を選択できるのが西工の強みだと思います。そんな西工製車体でも異彩を放つのが58MC E型の廉価版です。

今回はそんなバスを取材する機会を得ることができましたので紹介していこうと思います。

自家用登録 P-LR312J+E(58MC) 1988年式


通常E型ではフロントの下にメッキ加工された装飾部品と行灯がついており、ライトもその枠の中に収まっていることからかなりごつい印象を受けます。しかし画像のクルマはそのような装飾部品を一切装備せず、どちらかと言えばB型の幕板を撤去して上までガラスにしたかのような印象です。これもE型で選択することのできた仕様なのです。

同じP-LR312Jである対馬交通のE型と比較してみましょう。

対馬交通はグリル部分以外黒で塗られていてメッキの部分は極わずかに残るのみとなっていますが、装飾部品がきちんとついている"純粋な"E型と言えます。対して右の自家用バスではそのような装飾は一切ありません。 このようなスタイルをE(オーナメントレス車)と呼んでいたそうで、E型に設定された仕様です。実際どれほどの数が生産されたのか知る由もないですが現在も国内に稼働状態にある個体が数台残存しており、むしろオーナメントのあるE型のほうが稼働個体は少ないんじゃないかと思えてきます。
これらは全てP-LRですが聞くところによると大型であるP-LVや日野の中型シャーシに架装した例もあるそうです。



このクルマをパッと見た時、おそらくかなりの違和感を覚えると思います。B型でもなくE型でもないナニカに見えることでしょう。 違和感の正体はライトまわりにあります。

この車体はE型ですので、当然オーナメント(装飾部品)をつけることを前提とした設計になっています。フロントガラス下のボディが切れる位置はB型よりも少し高くなっています。ヘッドライトもオーナメントの中に組み込まれているわけですから当然E型はB型よりもヘッドライトがの位置が高くなるわけですが、オーナメントレスではグリル枠の厚み分ライトを高くする必要がないのでB型同様バンパーのすぐ上につきます。そうすることで本来あるはずのものがない空間が生まれ、ヘッドライトの上からボディーラインまでの間に余白ができてしまいます。これが違和感の原因といえるでしょう。

B型(左)との比較画像です。角度が違っているので純粋な比較はできませんが、なんとなくお分かりいただけると思います。



この仕様、方向幕もいらなければ行灯もいらず、とにかく価格を抑えたいと考えるユーザー向けにオーナメントを廃した仕様を設定したと考えられます。このクルマが最初から北海道へ納入されたクルマなのかはわかりませんが、非冷房車でかつフロントガラスの曇りを取り除くためのデフロスターまでもが省略されているという驚きのある意味ドケチ仕様と言えます。

リアフラッシャーも豪華なゴールドキング製などを使わず、バス協テールと言われるT65-21を採用することで徹底的なコストダウンを図っているように見えます。不思議なのはなぜかオプションであるリア1枚ガラスを採用していることです。西工の標準仕様だとリアガラスは3分割になります。あまり価格に影響しないものなのかはたまた別の理由があってこうなったのかは、このクルマも中古導入によってここへ来たクルマなので今となってはだれもわからないこと。


真横から見れば、斜めになった部分がE型であることを教えてくれます。もう迷う必要はありません。B型では直線となり幕板がついてるからです。

J尺の場合、公式側非公式側ともにほぼ同じ幅の窓ユニットがはめ込まれているのがわかります。全てがこういう仕様というわけではないようですが、西工の美学を感じることのできる部分であると私は思います。

車内は補助席つきで背もたれが独立したタイプです。荷物棚は簡易的なタイプでコストカットできる部分であったと想像できます。トランクがないので、いくらなんでも付けないという訳にはいかなかったのでしょう。


運転席まわりです。対馬交通の同型車と見比べてみましたが、流石にこの辺はシャーシメーカーから供給された部品を使って組み立てられる部分なのでとくに大きな違いはありませんでした。 画面右側に見えている黒いパイプは、デフロスターがないとあまりにも不便だからということで現在の所有者になってからそれっぽいものを自作して付けたものだそうです。


このクルマが製造されたのは1988年。バブル期ではどこも豪華な装飾品やメッキパーツなどをつけたバスを販売していた時期ですが、この時代にここまで徹底したコストカットを意識した仕様選択も珍しいことだったのでしょう。これも事業用ではなく自家用バスで、西工製だからこそ生まれた大変魅力的なバスだと私は思います。

西日本車体資料館

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